今年12月に創業54年目を迎える有限会社電技社は、浜田市内を中心に業務用冷凍冷蔵設備、空調設備の設置からメンテナンスまで手掛けている。3代目の小出忠史社長はいう。
「水産関連施設や食品製造工場を中心に、設置やメンテナンス、修理を任せていただいています。『三菱電機中四国冷熱ファミリー店』に認定されており、私は5歳年上の兄伸昭に続いて高校卒業と同時に入社、腕を磨いてきました」
事務所内のホワイトボードから「キャッシュフロー確保!!」「粗利減少注意!!」の文字が目に飛び込んでくる。よく見ると文字の背景はほかの部分に比べて黒くくすんでいる。文字が書かれた8年前から、そのまま消さずに残されているからである。
「2000年代以降、景気低迷のあおりを受け当社では売上高の減少が続き、創業者である父が2014年に亡くなった後に状況はさらに悪化しました。そこで兄と私は、地元の浜田商工会議所に相談に行ったところ、ある経営指導員が親身に相談に乗ってくれました。ホワイトボードの字は、その指導員が当社に来て書いたものです。キャッシュフローと粗利の確保は経営者としての基本中の基本だということが分かるようになり、日々そのことを忘れないように消さずにそのままにしています」
小出社長が「その方がいなければ今の当社はない」と評するその指導員の紹介を通じ伴走支援しているのが、桑原令税理士と清水和義監査担当である。清水監査担当は自他ともに認める熱血漢。月次決算と月次巡回監査を通じた緻密な業績管理体制の構築を全身全霊で支援した。そのかいもあり、目標だったキャッシュフローと粗利の確保が軌道に乗った。
「限界利益率を毎月必ずチェックしており、目標値を下回った場合は経費を一から見直します。ただ浜田市周辺は燃料費などが周辺地域に比べ割高。経費削減にも限界があるため、元請け企業にも適正な金額を負担してもらえるよう交渉してきました」(小出社長)
浜田市周辺で冷凍冷蔵設備の設置工事から保守点検・メンテナンス、修理に至るまで全てに対応できるのは同社のみ。地元の取引先とすれば、同社に依頼すれば全てが足りるだけに、「多くの取引先からなくなると困ると言っていただける」(小出社長)までに地域での存在感を高めている。そのため価格交渉はおおむねスムーズに受け入れられてきた。
小出忠史社長(左)と桑原令税理士
経営者として常に意識する言葉を消さずに残す
さらに清水監査担当が強くすすめたのが、TKC企業防衛制度(※1)である。
「清水さんから『経営者に万が一のことが起こった時に、会社を存続させるための備えが絶対に必要』とTKC企業防衛制度をすすめられました。創業者である父は49歳のときに脳梗塞を患い、その後何度も大病を繰り返し経営に大きな影響があったことを経験していたので、提案を受け同制度に加入することにしました」
ところが大きな壁があった。クレー射撃で国体出場の常連という顔も持ち、体力には自信があった伸昭前社長だが、高血圧の持病を抱えていたのである。
「申し込んだところ、このままでは加入は難しいということでした。すると清水さんは兄に『経営者に万が一のことがあったら会社は大変なことになる。企業の存続のためにもきちんと通院して治療してほしい』と必死に説得したのです。清水さんの熱い訴えを聞き入れた兄は真剣に治療に取り組み、3年後には血圧を適正にコントロールできるようになりました。こうして契約条件は付いたものの兄は同制度に加入することができました」(小出社長)。
当初は一定の解約返戻金が発生し経営資金に活用できるタイプに加入したが、その後保障重視にシフト。同社の決算時のほか、TKC企業防衛制度の更新時や新規借り入れの際には標準保障額(※2)を都度算定し、死亡・高度障害、がん・急性心筋梗塞・脳卒中による就業不能、病気や事故に起因した身体障害による就業不能を保障するそれぞれのタイプにトータルで加入した。
また従業員を大切にできる会社でありたい」との思いから、経理を担当する小出社長の妻、「勤続30年を超え家族のような存在」である従業員の保障もカバーした。
こうして万全なリスクマネジメントを整えた矢先の今年1月27日、伸昭前社長が急逝したのである。小出社長はいう。
「亡くなる前日まで、いつもと何ら変わることなく私と一緒に仕事をしていました。27日の朝に体調不良を訴え、その後容体が急変し、その日の夕方には息を引き取ったので、まるで交通事故に遭ったかのようでした。経営者として志半ばで急逝した兄を引き継ぐ私は、経営者に万が一のときに会社を存続させるための備えを常に意識しなければならないと、これまでにも増して思うようになりました」
桑原氏も万が一の備えの重要性を次のように強調する。
「企業はコストを削減するとき真っ先に保険料を対象にしがちです。しかし私は、資金繰りが厳しいところほど万が一の備えのための保険が必要だと思います。資金に余裕のある会社はなんとかなりますからね。経営者のみなさまには、電技社さんのように、『万が一は本当に起こる』ということを心にとめていただきたいと思います」
温暖化による気温上昇など、食品を扱う施設は原材料や商品の温度管理に従来にも増して神経を使う時代になった。冷凍冷蔵設備、空調設備の工事、保守関連の需要は今後も拡大が予想されるという。小出社長は同社が目指す姿について次のように語る。
「小さな会社こそ技術力を磨き、地域からいかに必要とされるかが生命線です。今後は若手の採用と後継者の育成にも注力し、地域に不可欠な企業であり続けたいと考えています」(取材協力・桑原令税理士)
※1TKC企業防衛制度…大同生命保険とTKCが共同開発した保険商品。企業の内実を知り尽くした顧問税理士(TKC全国会会員)が、財務状況などの経営環境を考慮しながら最適な保険を提案するところに特徴がある。
※2標準保障額…経営者や幹部社員など企業の根幹である貴重な人材に不測の事態が発生した場合に、その企業が被ると想定される「経済的損失額」を算出したもの。
有限会社電技社
業種 :冷暖房設備工事業
設立 :1971年12月
所在地:島根県浜田市長沢町3055番地2
社員数:1名